滝修行最高! 〜修験道宗 三重院〜三泊目

 ガランガラ〜ン・・・
05:50 「ぎえっ!しまった!」
 これは、住職が本堂へ入るときに入り口の鐘を鳴らす音である。
勤行は6時からだが、少々早かろうがお寺の勝手だ。早い話しが寝坊じゃあ〜本来、先に本堂へ行って勤行の用意をしておかなければならぬ立場の自分は、布団を放り投げドタドタと一目散に階段を駆け下りた。
しかし不思議だ・・。携帯二つと目覚まし時計の、三つのアラームで起きれないのに、外で聞こえる決して大きくない、あんな小さな鐘の音で不思議と目が覚めるのはナンでなんだろう?
「鐘の音=住職の怒りに触れる」の図式が、既に頭の中で組みあがっているからか?(笑 

「お早う御座います!」
「うむ、お早う。顔は洗ってきたんかい?」
「はい!」・・ ウソである。
「口は濯いで来たんかい?」
「はい!」・・ これもウソである。(笑

 手洗い場は、宿坊から本堂を越えた反対側にある。まっしぐらに二階から駆け下りてきたのだから、絶対バレバレのはずだ。そんな住職の、疑い深〜い眼差しを無視してそそくさと、灯明に火を燈したり準備に参加しだす。

「オイ! それはイカン!」
「はい、すいません」
あとで顔を洗いに行くためのタオルが、首に巻きっ放しだった。相変わらず良く怒られる(笑。

 以前、歩き遍路の記事でもお伝えしたと思うが、自分は外泊したときは必ず我が家のご本尊やご先祖、神々を拝むために常に神棚と仏壇の写真を持ち歩いている。
仕事で出張などの時は、我が家の神仏のための勤行一度で良いが、この修験道宗 三重院のように他宗の寺に泊まったときでなくとも、寺に泊まればその寺の勤行に加えて二度勤行しなくてはならない。
が、三重院の朝勤行はおよそ50分近い。終われば7時近くになって、すぐさま朝食の準備を手伝わなくてはならないので、朝はせわしない。


 食事の準備をしていると、住職が「コレは、アンタのか?」と、タオルと歯ブラシを持ってきた。
食後に使おうと横着して、本堂の上がり口に置きっ放しだった。また、怒られた。(笑
なぜか教えて貰うのを忘れたが、本来、滝修行は午後二時かららしい。だが、今日は両住職とも予定が入っていて忙しい。そのため8時半集合、9時出発となった。そんな慌しい折に、滝修行をお願いして反って申し訳なく思った。
 修行中の食事は非常に簡素である。肉、魚、玉子も一切無し。
歩き遍路を終えて既に四ヶ月。以前のように、毎日外食〜やれ特上カルビだステーキだ、ってな贅沢三昧はしていなくても元々食欲旺盛、中年になって多少は魚好きにやや傾いてきたとはいえ、元来超肉食。
毎日好きな物を好きなだけ食い続け、トレーニングもしていないので、せっかく歩き遍路でペシャンコになった腹は、すっかりメタボ腹に戻りつつある。だから、こんなときぐらい粗食も身体に良いモンだ。
食後、洗い物を終えて再集合の時間まで、一人本堂へ入り我が家のご本尊、並びに神々への勤行を捧げる。


08:30 準備

三重院 薬師の鉢巻 時間になった。いよいよ滝修行に出発だ。
既に玄関で副住職が準備を始めている。水行に使った白い腰巻、新たに頂いた「薬師の鉢巻」、お供え物、錫杖、バスタオル、着替えなどを用意する。
因みに、この「薬師の鉢巻」は当三重院で扱われている物で、滝修行だけでなく受験生の勉強時にも多大なご利益が望めるとあり、心身清浄の御守にもなる有り難い鉢巻である。修行が終われば頂いて帰れるので、大切にしたいものだ。
車を止めてから滝場まで、200mほど山道を歩くし当然、飛沫の舞う滝場は濡れているので長靴がいい。草鞋しか持参しなかったので、住職の作業用の長靴をお借りした。次はチャンと持参しよう。白衣は持参したが、腰巻を用意して下さったので不要だったようだ。(女性は上半身裸になるわけに行かないので、白衣を着用するのだろう)

09:00 出発
三重院から滝まで、車でおよそ30分。
この移動の間、車の中でずっと般若心経を唱えておくとのこと。滝修行を控え気を引き締めて行く為だそうだ。
山間にドンドン車を進めて行き途中、副住職がお供えの酒をコンビニで買った。
二人して薬師の鉢巻は、三重院から巻いたままである。人相の悪い二人? が、パッと見ぃ日の丸っぽい鉢巻を巻いてウロウロしてると、どう見ても僧侶でなく右翼にしか見えん。おまけに副住職は迷彩パンツを履いてるし。(笑

合瀬大橋から不動滝を望む やがて旧吾妻街道に新しく出来た、大きな合瀬(かつせ)大橋に車を止め、そこから「滝が望めるから、写真撮るかい?」と副住職が教えて下さった。
車から降りると橋の上は風が吹きすさみ、おまけに日陰になっている。(寒そうだな・・)おまけに、この橋は相当高い位置にあるのに、眼下に望んだ滝は小さく見えず縦の距離が長そうだ。
「今日は水量が多そうだな〜」と、副住職。この時期、反って谷川岳の雪が溶け出して混ざり、水温も低くなるという。

不動堂へ この不動の滝は、別名「人影の滝」とも呼ばれる。
近くにあった案内板によれば、平安末期に追っ手から逃れ主君を慕って滝壷に身を投げた、若い二人の武士の姿が滝の左側の岩に変じて見られるという。詳しい場所などは分からないが、WEB上では写真家や滝マニアが沢山アップしているので、ご興味ある方は「群馬 人影の滝」とでも検索されてはいかがか。

不動堂の不動明王像 合瀬(かつせ)大橋を渡りきって左折すると、不動堂の裏にちゃんと5〜6台は停められる、舗装駐車場まである。この不動堂へまず行き、中をほうきで掃除する。扉は閉まってはいたが隙間が多いせいか、木の葉や細かなゴミが目立ったのでキレイに掃いた。
灯明を燈し勤行を上げる。こちらの不動明王は石佛だが、珍しくやや温和な憤怒ではない像だった。きっと古くからの民衆による信仰で創られたものなのだろう。
ここで簡単なレクチャーを受ける。滝修行での次第は、昨夜の水行と同様かと思っていたが少々違うようだ。同じなのは、なるべく頭に当てないこと。毛細血管があるので頭には当てない方が良いらしい。
あとは無理しないこと。本来は、大日如来の五文字明と般若心経を含め、三回交互に出たり入ったりするらしい。が、途中で頭が痛くなったりヤバくなれば出て良いとのこと。但し、滝においても右回りは鉄則らしい。
不動堂の入り口にお札があったので、お賽銭を入れていただいた。今は自宅の神棚に祀ってある。


不動の滝(人影の滝) ここから、荷物を持って橋の脇道をずぅっと下へ降りていく。
目の前で見る滝は、更に大きく立ちはだかる様にあった。太く流れ落ちる水は、ズドドドドーッと鼓膜を揺るがす。お供え物を置き、副住職が酒を巻いて滝場を清める。
シートを敷いて、服を脱ぎ、スッポンポンに腰巻一枚を着ける。北側に位置するのか、橋の上から見たときと同じように日の光りは一切なく陰っている。

滝修行のお供え物
 ここから、途端に副住職の気合が漲っていく。勤行時における住職の気合は目を見張るものがあるが、正にそれに勝るとも劣らぬ気を感じる。副住職曰く、「何度滝修行をやっても、冷たいモンは冷たいさ」。こうして、自らの気を高めることによって、通常の感覚を越えて行かねばならないのだろう。
また滝には、強烈な浄化作用があるが故に、他人が払った不浄な業や霊が膨大に満ちているとも聞いたことがある。それらに憑かれないという意味においても、気を高める必要は充分あるだろうと思う。

 滝修行中、何か動作を起こす際に副住職が「行くぞぉっ!」と叫ぶと、「よぉぉしっ!」と返さねばならない。
発声練習といおうか、試しにやらされたが何度も「まだまだぁっ!」「もっと出るはずだぁっ!」と、どやされる。
・・確かに。おっしゃる通り。まだまだ死に物狂いで声を張り上げていない。理屈で分かっていても、ナンだか気分が乗らないといおうか、真剣さが足りんといおうか。。このときは、なぜかそんな状態だった。

自分は客商売が長い。創業以来わが社の事業ポリシーとして挨拶を最も重要視しており、かつてはよく店舗の開店時などの新人研修には先頭に立って自ら赴き、大声で挨拶訓練を敢行していた。
挨拶もロクに出来ないヤツに仕事なんぞ教えなくていい。そう各店長にも徹底させていた。人件費的には早く仕事をさせた方が頭数にもなる。それでも敢えてこの方針を貫いていた。

「誰も見ちゃあいねんだし、恥ずかしがるこたぁねぇよ!もっと大きな声を出せ!」そう、副住職に云われたとき、「かつて出しことのない声を出せ!」と、全く同様の事を社員にも云っていたことを思い出した。


 般若心経を唱えてから、四方に向かって「宜しくお願いします!」と合掌し叫ぶ。
更に、木屑を拾って、滝と反対方向へ投げながら「むさぼりの心を流し給え!」「怒りの心を流し給え!」「愚痴の心を長し給え!」と三回叫ぶ。内容は水行と同じである。軽く手で水を救って身体を淨め、お供え物の前で五体投地する。
最後に、「三重院住職に!宜しくお願いします!」と叫んだ。このとき、山間から見えた空の向こうに、火渡りでゴールに印契を結んで待ち構えて下さっていた住職の姿が浮かんだ。途端に不思議と力が湧いてきた。
(そうだ・・ノリが悪ぃーな今日は〜とか、呑気に抜かしてる場合じゃない。中途半端な気合で挑むとヤバイのは自分だ。)

 そう観じた瞬間から一気に気合が入った。
副住職から轟音渦巻く滝へ突入していく。自分はすぐ脇で待っている。無論、滝の真下ではないこの場所でも、顔面は激しい水しぶきでズブ濡れである。

脇を締め、手は印契でいう外縛をした上で人差し指のみを立ててあわせる。こうしないと、合掌では手が震えてピタッと定まらないらしい。

なにか叫びながら滝を浴びたのち、副住職が出てきた。
(アレ? 始めは般若心経だったんじゃ? にしては早すぎる)
「何て云ったんですか?!」大声で確認する。
「アビラウンケン!」
「何回ですか?!」
「7回!」
自分は至って冷静だった。
ただ、レクチャーの理解が悪かったのか、手順を誤って覚えていたようだ。
だが、分かればもう、あとは飛び込むだけだ。

「どぉおりゃああ!」
「アビラウンケン!」「アビラウンケン!」「アビラウンケン!」・・・

 想像を絶する凄まじい滝の勢いだ。
冷たさは微塵も感じない。ただ、打たせ湯の一万倍ぐらいの強烈な力が真上から直撃する。
二度目に入ったとき、立った場所が悪く頭に随分かかってしまい、久しぶりに棍棒か木刀で脳天をかち割られたような衝撃だった。
寒いだろうと思っていた順番に外で待っている間も、反って暖かく感じるほどだった。


 無事に般若心経も、真言も全てやり終え、お供え物の場所まで戻る。
また、同じように四方へ「ありがとうございました!」と、合掌し五体投地。全部が終わった。

滝修行は最高じゃ!
なんという清々しさ!言葉にならぬほどの気持ちよさ!
着替えるときにフルチンになるが、しばらくそのままで居たいくらいの爽快さといったら、伝えきれぬほどだ。昨夜の水行のように、身体が震えて止まらないことも全く無い。きっと、昨夜は気合が足りなかったのだ。
要するに、滝修行や水行は気合だ。修行なんだから当たり前か。

「最高ですね!クセになりそうです!」そう、副住職に云った。
ただ一つだけ残念だったのは、二人だけで行ったので自分の記念すべき、滝修行第一号の写真がないことだ。やる前に先達に頼んでみたが、一緒に浴びるので撮れやしない。
一度、先達は防水の携帯で自分で自分を撮ったらしいが、そんなこと滝修行中にやると、気合が抜けてしまって危ない(笑。


不動滝の近辺地図 一応、不動の滝(人影の滝)の近辺地図を載せておく。ただひとこと。決して初めての人や、初めてでなくても一連の作法が一人で出来ない方は、滝修行を独行されない方が良いと思う。
自分も始めるまでは、場所を覚えて一人で来ようかとも思った。そのつもりで地図の写真も撮った。だが、今回の様々な作法や手順、気合への導き方などを見て、やはり先達のような方に同行して貰うのが賢明だと思った。
ヘタにやって、身体に障害を招いたり、不浄な業を背負い込むよりも、三重院へ一本電話かメールで連絡すれば、いつでも修行させてくれるのだから。そうしましょ(笑


 帰り道にある、猿ケ京温泉に寄って行く。
「ご褒美ですか?」と、修行者に聞かれることがあるそうだが、それは違うと副住職は云う。滝修行のあとこそ、身体を温め健全な状態に戻してこそ意義があり、言い換えれば温泉に行くコトも修行のうちであると言う。
温泉好きな自分にとってはたまらん。なんていう施設か見てないが、サウナでご一緒したご老人に教えていただいた話によれば、広くてメチャメチャ気持ちよかった露天風呂から、すぐ裏に見えたのが赤谷湖で、まだ新築っぽい館内に芝居小屋も併設されていて、良く観に来るんだと云っていた。
たったの650円で入れるが、この辺りだと高いほうらしい。

 三重院に戻って、両住職ともに慌しくお葬式や行事に出かけられた。
昼食を一人いただき、自分は虚空蔵求聞持法の続きをやるべく、マントラ修行の続きに入った。午後五時まで、前日と合わせて合計二万六千遍唱えることが出来た。これで現在は都合、三十七万三千遍となった。

副住職は、六時ごろに戻られるとのことだったので、五時から一人で勤行を行なった。終えて一服していると、早く戻ってこられたので、もう一度勤行をやった。一人では経は常用集を見ながら唱えられても、太鼓も叩けなければ、錫杖も振れない。重複しても、キチンとこなした方が良い。

勤行後、行が解かれ今回の修行も無事満行と相成った。
本来はこれでお終い。帰宅の途に着くはずだったが、以前から副住職と呑む約束をして、互いに忙しく果たせなかったので、もう一泊させていただき、今夜呑むことになった。
既に友人の経営するイタリアレストランに、わざわざ予約まで入れて下さっているという。そんなお膳立てまでされると、まるで副住職にデートに誘われる女の気分だった(笑。

まずは、ビールで乾杯!美味い!美味すぎる!
猿ケ京温泉の風呂上りに、呑みたくて呑みたくて仕方なかったが我慢した甲斐があった。
友人のお店は、こんな田舎に・・って失礼だが、不似合いな位のシャレたイタリアレストランだった。副住職は良く雑談がてらコーヒーを呑みに来るらしい。

そこで、ワインを一本軽く呑み干し、そのまま沼田市の呑み屋街へ移動して、夜半過ぎまで三軒ハシゴした。沼田市で呑んだのは初めてだが、酒好きが多いのか、人口の割りに呑み屋が多いらしい。事実、月曜の夜でもどの店も満席だった。

加えてこういう所へ呑みに出るのは、一年ぶりだそう。とは、副住職曰く。
どこもボトルが切れていて、行った店々で新しくボトルを下したので、きっと多分ホントの話し(笑 

銀座や六本木にいるような、キレイなコは流石にいなかったが、(笑
ひとつ嬉しかったのは、副住職も自分の好きなワイルドターキーを呑まれることだった。しかもロックやストレートで付き合っていただいた。
先達、今度は期限の切れないうちに、一人でも呑みに出かけて下さいな。
せっかく入れたんだし。


 こうして、今回の「火渡り」「マントラ」「滝修行」。
二度目の三重院での修行は、初日の夜の落慶宴会の酒に始まり、今宵坊主の呑み会の酒に終わった。
ええんかい(笑。 

 あ、先達!(副住職のことを、そう呼んでいる)上の記事、またマズかったらコメントかメール下さいな。
削除しますから(爆