マントラ修行とマジ寒い!水行 〜本山修験道宗 三重院〜二泊目

05:20起床
 ガバっと起きたら、5時に合わせたアラームは止っていた。泊まった三人のうち、法螺貝の上手な羽黒修験道で得度したという、若い行者は既に布団を畳んで居らず、隣ではもう一人の行者も布団を畳み掛けていた。
つまり、自分はドベ(ビリ)である(笑。 前夜、三人の携帯アラームが鳴れば楽勝で起きれると、話していた。高野山での得度式でもそうだったので、余裕かまして一人遅くまで読書していたら寝坊した。
汗ばむほど天気の良かった昨日と打って変わり、空一面曇っていて肌寒い。住職が来る前に、堂の中の灯明を燈し、線香を焚いて用意しなければならない。ダッシュで降りていく。

そうそう、今自分が読んでいるのは、司馬遼太郎の空海の風景〈上〉空海の風景〈下〉である。既にご紹介の通り、空海に関する様々な書物を読んだが、貴方がもし初めて「空海とはどういう人だろう?」そういう思いに駆られて、本を探すなら迷わずこちらをオススメする。
司馬遼太郎の記念館へ行けば分かるが、仏教に関する書物だけでも二万冊を有し、綿密な調査の上に構想十余年、積年のテーマに挑む司馬文学の記念碑的大作である。
昭和五十年度芸術院恩賜賞も受賞しているこの著書は、小説ではなくむしろ、司馬遼太郎自身のエッセイのような構成で、敢えて「風景」と表現した歴史上見えざる空海の人間的な部分を、まるで傍に居るかのような親近感で書き上げた力作である。

また、NHK取材班が編集した『空海の風景』を旅する (中公文庫)は、「空海の風景」で追う空海の歩いた道を辿っていく旅の書で、いつかこの本を持ってお大師さんの歩いた道筋を追って行きたいと思っている。

 活字が苦手で、(って、そんな人はこのクソ長いブログなんて読まれないだろうが(笑)
 まずは、空海をカンタンに知りたいという人には、DVDのようなビジュアルが手っ取り早い。そんな方にはこの「空海」という映画をオススメする。
 これは昭和59年の作品だが、当時として巨額の十二億円を投じて作られた歴史大作で、同時期に発会した全真言宗青年連盟がDVD化を切願し、先月三月末に発売されたものである。
 どうしても、やや真言宗に肩入れ気味で先の「空海の風景」ほど、客観性には乏しくはなっているのは致し方ないが、空海の幼年期から入定までをストレートに垣間見れるのは分かりやすい、空海入門編には最適といえよう。

 予てからこれらを読者の皆さんに是非ご紹介したかったので、少々遠回りしてしまった。
申し訳ない、本文に戻ることにする。

 今朝の勤行では、羽黒修験道宗の彼が得意の法螺貝を吹き、参列者も多かったので読経も迫力があった。修験道宗の勤行常用集には、三礼のあとに法螺貝を吹く次第になっている。
それにしても、みな在家とはいえ、行者の方々は経を読むのが上手い。例えば、九条錫杖や本覚讃、修験懺法、などこれら修験道宗で読まれる経は、それぞれ独特のリズムやアクセントがあって、普段唱えず慣れない自分には中々ついて行けない。

勤行のあとの食事は、修行中の者とそうでない者とは内容が違うので別々にいただく。
修行中の自分は、一泊体験修行の若い二人組みの女性と副住職の三人で摂った。久しぶりに、食事前に「斎食儀(さいじきぎ)」を唱える。合掌し、展鉢偈(てんばつげ=鉢を展ぐる偈)〜法界定印を結んで、五観偈(ごかんげ=食べ物を如何に有り難く無駄なく正しく頂くか)〜般若心経〜「いただきます!」

・・・ちゃんと普段からやってなきゃダメだな。
神仏に手を合わせるようになってから、子供のとき以来、「いだきます」を云うようにはなっただけ、自分には進歩した気でいたが、流石に斎食儀までは毎日の食事でしていない。
二日あとのことになるが、行を解いた最後の朝食時に隣の部屋から、村上住職と妙清先生(奥様)がお二人で斎食儀をされているのが聞こえてきて、心底感心した。まだまだ精進が足りんねワシャ。


 午前中は、全員で前日の火渡りや大祭の後片付け。
掃除や片付けも作務の一つ、立派な修行だ。女性陣5人と男性5人で結構人数は居たが、やってみると大変だ。細々した物の整理から、また来年使うための大きな板や臼などを運んだり倉庫へ収納したり、力仕事は男達でやった。本来、この三重院には村上住職と副住職しかいらっしゃらない。恩年73歳の住職は指示するだけでなく、自らもテキパキ、しゃきしゃきと動かれるとはいえ、とてもとても二人だけでは片付かない。


 さぁ、そうこうして昼の勤行を終え、まだ修行の残す自分は一人だけで昼食を本堂で摂った。
この後はいよいよフリータイムだ。副住職は、遺跡に関心がある若い女のコたちを連れて、どこか裏山へ消え(笑 行者さんたちは、住職と呑み会中。自分はただ一人、本堂へ入って虚空蔵求聞持法のマントラ行を始めた。
三千回程度に一回づつ、外へ出て一服。この辺りでは、古い土器などが沢山発掘できるらしく、やがて副住職が女のコたちと何やら見つけたのか戻ってきていた。
小学生のときから、発掘マニアという住職は自慢のコレクションを行者さんたちに披露していたりと、外はワイワイガヤガヤ楽しくやっている。羽黒の行者さんが「騒がしくてすいません、修行されてるのに」と気を遣ってくれるが、堂内でマントラに集中していたら特に気にもならない。

 夕方近く、知らぬ間に行者さんたちも体験修行の女の子たちも帰り、結局この日は午後だけで、一万二千遍の虚空蔵求聞持法を終えた。日もすっかり暮れた頃、堂を出ると雨も降り出して気温は更に低くなっていた。
マントラ中、時おり外で副住職に会うと、「寒くないかい?」「ストーブつけていいよ」などと、本当に優しい声を掛けて下さる。記事にもハートマークの絵文字を付けたくなるくらいだ。(笑


 『マジ寒い!!水行(すいぎょう)』
明日の滝修行の前に、今夜は水行をしなさい。と指示を受けた。
昨日、火渡りの前に住職がされていたのを目の前で見ていた、井戸の水を被るアレである。本堂で住職から水行次第のレクチャーを受けた。
「九字は切れるか?」「いえ、切れません」
「不動経は暗唱できるか?」「いえ、出来ません」

明日は、お葬式や方位診断の予定が入っていたりと、両住職共に忙しい。打合せでお二人とも出たり入ったりしている。電話もひっきりなしにかかっている。
勉強不足じや〜、せめて九字ぐらい覚えとけば良かった。お手間を煩わすわけに行かず今回そこは省略となった。雨の中、教えて貰ったことを書いた紙を見ながら出来ないので、以下の次第を暗記した。

水行次第
1、井戸から梵字の書かれた桶に二回水を汲む
2、「今から修行させて頂きます。大きな意味での私の心と身体が丈夫で
   ありますように。どうかお力をお貸し下さい。」と合掌する。
3、般若心経を唱える
4、次のご真言を唱える
大日如来(五文字明=アビラウンケン)21遍
不動明王(慈救呪)7遍
南無神変大菩薩 7遍
5、次の祈りを捧げながら、気合入れて叫び水を被る
まず左手、右手、心臓に水をかける。
「むさぼりの心を流した給え」
「怒りの心を流した給え」
「愚痴の心を流した給え」
6、これをワンセットとして、スリーセットやる。(計九回被る)

以上


20:30ごろ
先に副住職が水行をされるとおっしゃっていたので、本堂でマントラしながら待っていたが、一向に来る気配がない。声を掛けに行くと、まだお二人で打ち合わせ中で忙しそうだ。結局、自分一人でやることになった。

 風呂場へ行き、服を全部脱いで、白い腰巻きを着ける。
風呂場から井戸まで二十歩ほどだが、どうせ濡れるから風呂場のドア前で草鞋は脱いで裸足で井戸へ向かった。冷たい雨が両肩にかかる、既に寒い。井戸の前にある、本堂には灯りが点いていたが、井戸までその灯りは届かず薄暗い。

 般若心経を読んでいる最中にも身体はドンドン冷えてくる。
被っている最中は、それほどでも無かったが、わずか二十メートル弱の風呂場まで戻る間に、全身が震えだす。おまけに、昼間引き抜いた祭事用の柱が立っていた大きな穴に、片足を突っ込み膝まで泥だらけになる(笑。
とにかく、かつて恐怖感も含め寒さでこれほど震えたことが無い!というほど、まるで重度のアル中患者のように震えが止らない。脱衣場に跳び上がると、バスマットが泥だらけになった。

 あまりの寒さに、足を拭いて上がるのを忘れたのだ。
「妙清先生〜申し訳アリマセン。バスマット汚しました」と、お詫びしたのは風呂から出てから。そんなことに構ってられないくらい、寒かった。熱いシャワーを随分浴びても、たった九回水を被っただけで、身体の芯から冷え切ったようだった。


 (う〜〜ん。幾ら、夜で気温が下がり雨も降っているとはいえ、たかが、桶の水を九回被ったぐらいでこんなに寒いんじゃ、明日の滝に打たれたら死ぬんちゃうか?)(笑 
古来より、こういった修行のみならず、何か祈りを捧げたり願意を成就させるため人々は水を被って祈願した。徳川家康がまだ母である刈谷御前 於大(おだい)の胎の中にいたとき、於大の更に母である華陽院に諭され、まだ見ぬ我が子に、「乱世の根を絶つ力を授け給え」と、夜な夜な百杯もの水を浴びて祈ったという。

 華陽院は、乱世を鎮める世を生み出すのは母である、女子の務めだと諭したのだ。そう、日本国中の母親が祈って産み、祈って育てれば、いつか戦乱の業火も消えうせると信じていた。
これは正に、現代の腐った日本にも言えることである。先頭に立って日本を変えるのは、男ではあるがその強靭な意志を持つ男を育てるのは、一人ひとりの母親なのだ。

これまで日本の殺人犯罪は、必ず因縁や怨恨による動機があって検挙率も高かった。が、今はアメリカを真似るように、ただムシャクシャしていたから、誰でも殺したかったなど、動機無き無差別殺人が増えた。
モンスターペアレンツなるバカ親が台頭してきたのも、そのバカ親を育てたバカ親のせいであり、本当にこのまま放置していくと、ポイントオブノーリターン(立ち戻れない地点)にまで達して、バカだらけの蔓延した戦国時代以下の日本になってしまう。

だからこそ、自分は世の為、人の為、国の為に尽くす大義を立て、とりわけ女人救済に尽力して行くべきだと強く観じるのだ。それゆえ、今は愛染明王を背中に刻んでまでも一体化を切望している。
こんな、九杯ぐらいの井戸の水でハナタレてるようじゃ、どうにもならん。
気合入れろ!気合入れろ!気合入れろ!そう腹をくくった。


今夜は、一人で寝床に戻る。もはや、自分以外誰も残っていない。
明日こそは寝坊するとシャレにならん。住職にどやされる。
集中マントラで疲れもあった。読書もそこそこに早めに寝た。