昨夜行なった、大黒天一日千座行の補足になるが、『印』について具体的に述べていなかったので、今日はもう少しご紹介していこうと思ふ。

 三面大黒天の印の結び方
云うまでもなく、三面大黒天は、『大黒天』『毘沙門天』『弁財天』の三神合体仏であるから、ご真言同様に印相もそれぞれに結ぶのが正しい。 と、されているが実は『三面大黒天』そのものの、『印相』もある。

順次ご紹介すると、左から・・

大黒天の印            弁財天の印           毘沙門天の印
19555310.jpg   b3a7968b.jpg   1ebd428f.jpg

 大黒天の印の結び方
内縛して、無名指(むめいし)と小指(しょうし)を立てる。
怨敵の調伏、商売繁盛、除災招福などを掌る(つかさどる)。
印名:大黒天神印
ご真言:『おん まか きゃらや そわか』
梵名:マハーカーラ

 弁財天の印の結び方
左の五指を伸ばして仰向けにし、へその辺りに置く。右手は大指と頭指で輪を作り、残った三指は伸ばす。右手を左手の上で回転させ、琵琶(費拏ひな)を弾く様にする。
印名:弁財天費拏印・宇賀天神印
音楽、文学、技芸などを守護し、財福を掌る。
ご真言:『おん さらすばてぃー えい そわか』
梵名:サラスヴァティー

 毘沙門天の印の結び方
虚心合掌し、小指のみ内縛する。大指は並べて立て、頭指は立てて開き、第一関節を屈する。(画像はあんまし曲がってない(笑) 残った中指と無名指は、立てて合わせる。
印名:多聞天印(毘沙門天印)
戦いを掌り、北方に関する一切の守護を担う。
ご真言:『おん べいしら まんだや そわか』
梵名:ヴァイシュラヴァナ

 そして、これが三面大黒天の印の結び方
217d0866.jpg中指と無名指の第二関節を曲げて合わせ、残った大指、頭指、小指をそれぞれ立てて合わせる。 大切なのは、三面大黒天の絶大なる力を、自分の内面から拳の内側に、満ちるよう想いを強化して行く。

 ここまで読まれて、『無名指』や、『内縛』など、ちょっと聞きなれない言葉に、「なんのコッチャ?」と、思いつつも、賢明な読者さまならば、画像と照らし合わせれば、フムフムあの事を云ってんだな? と、お察し頂けたかと思う。


 釈迦に説法だが、いちおー補足すると、弘法大師が「これぞ、即身成仏を実現し得る秘法じゃ!」と、唐から日本に持ち帰った、密教行法三大中核修法、いわゆる三密(身密・口密・意密)の一つ、自らの体と御仏の体を重ね合わせる、身密(しんみつ)である、密教の「印」において、指使いは大変重要な役割を示す。

インドの伝統文化である、ムドラー(指や腕を使った古典舞踊)を起源とする、印の結び方は、仏教書に記された物があるが、独特の呼称や表現で書かれており、我々素人には、なんのコッチャか、サッパリ分かりまへん(笑。
しかし、噛み砕かれた本を読んでも、最低限覚えておかねばならないのが、指の名称や、『内縛』など基本的な印の結び方である。

これを、まず覚えてしまえば、大抵の本屋に並んでいるような、印に関する本を立ち読みしただけでも、二つや三つは覚えて帰れる。 実際、自分も本を買うまでは、十個ぐらいの印を立ち読みして覚えた(笑。


各指(十指)の名称と意味、その働きについて知りたい人は
▼こちら

    名称         五大    五蘊
○親指⇒大指(だいし)     空(くう) 識(しき)
○人差し指⇒頭指(とうし)   風(ふう) 行(ぎょう)
○中指⇒中指(ちゅうし)    火(か)  想(そう)
○薬指⇒無名指(むめいし)   水(すい) 受(じゅ)
○小指⇒小指(しょうし)    地(ち)  色(しき)

 五大(ごだい)、五蘊(ごうん)に関しては、姉妹ブログ『Mudita(ムディター)』の、仏教用語にて後日詳しく述べるとして、ここでは印に絞りまとめよう。


 印(印相・印契)の起源
紀元前1500年ごろに端を発する、インド・アーリア人のもたらした、バラモン教が印のルーツとされる。バラモン教とは、神々の賛美や祝詞、呪文などをまとめたインド最古の聖典、『ヴェータ』による、クシャトリア・バイシャ・スードラなる階級制度を形成し、バラモンを頂点とした宗教。 手っ取り早くバラモンを知るには、手塚治の漫画『ブッダ』がお手ごろ。

 その神々の祭祀にあたり、わが国日本においても、巫女が神楽(かぐら)を踊って神憑り(かみかがり)をしたように、古代インドでも音楽や舞踊が非常に重要視された。そうした宗教的背景による舞踊の中で、手指や腕を使って抽象的である、概念や行為、想いなどを表現したものが、『ハスタ・ムドラー』であり、長い年月をかけ洗練され、やがて仏教〜とりわけ密教へと取り込まれていく。


 みなさんも、良く目にしたことのある、釈迦の五印(禅定印・降魔印・説法印・施無畏印・与願印)が、仏教における最古の印とされる。 余談だが、人の形としての印を結んだ、釈迦像は釈尊の入滅から4〜500年の後に初めて造られた。 この間は、いわゆる『無仏像の時代』と云われ、菩提樹や仏足石、佛舎利や法輪を以って釈迦を表し、偶像崇拝は行なわれていなかった。

 その後、6〜7世紀に仏教やヒンドゥー教に絶大な影響を及ぼしたとされる、タントリズム(民族宗教運動)が起こり、大乗仏教の中から、「仏教のタントリズム」と呼ばれる密教の行者や阿闍梨たちが、発生当初には釈迦像が組むだけだった『印相』を、秘密の手法として発展させていった。


 「手が赴くところに、目が赴き、目が赴くところに思考が赴く」
と、云われるインド古典舞踊において、踊り手はムドラーによって、神にも動物にも自在に変化できた。 これを即身成仏に置換え、神仏と自らを一体化することによって、様々な神秘を具現化して人々の願いに応え、迷いを救うことを目指す。 それこそが『印』である。


参考引用:密教 印のすべて これは印が殆ど図解で載っており、非常に分かり易い。 印を知る第一歩にはオススメの本。