第六天魔王をご存知だろうか?
歴史や戦国武将の好きな方は、すぐピンと来られるだろう。
そう、あの織田信長公が、自身を第六天魔王と称されていたことを。

 天下統一、天下泰平に尽力した、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康は、三者三様に好きだが、自分が戦国武将の中で、最も崇拝するのは織田信長だ。
それゆえ、第六天魔王のことも、神仏に手を合わせる前から興味を抱いており、いつかじっくり調べたいと思っていた。

 ところが、自分にとっては驚愕の事実が判明した。
なんと、あの第六天魔王と、愛染明王は同一だというのだ。 んなコトぐらい、とうに知っとるわい! と、教養のある読者さまには、お叱りを受けそうだが、自分は全然知らずに、今まで両者を別角度から追いかけていた。 だから、なおさら驚いたのだ。

 関東八十八ヶ所巡礼時に、たった一箇所だけ、この他化自在天=第六天魔王を本尊とする寺があった。『東国第四十五番札所 観福寺』だ。
関東八十八ヶ所遍路において、ただ一箇所、この寺のご住職だけが持参した写経を、目の前で誦経(ずきょう)して下さり、納経帳のご朱印と共に割印もして下さった。
そんなワケで、なおさら印象深く、いつかお礼参りを兼てまたご住職に会いに行きたいと思っている。


東寺・観智院の愛染明王 一方、愛染明王は、四国歩き遍路の帰りに京都・東寺を訊ねた際に、観智院で初めて間近で愛染明王像を観て、そのときは愛染明王の事を詳しく知らなかったのに、直感的に『これぞ、我がご本尊、我が宿命の御仏』、そう感じてから色々調べていた。

 そうやって、全く別の角度と根拠から、双方の御仏を身近に感じて、いつものようにアレコレと学んでいたら、ひょんな文章が目に飛び込んできた。

『マーラは第六天に住む天界の最高神であり、他化自在天や第六天魔王ともいう』

「は? はぁ? なんやてぇっ!?」

一人、書斎で奇声を発した。
椅子から立ち上がって叫ぶくらい、自分には驚愕の事実だったのだ。


ううううん、なんでやねん!
愛染明王の梵名は、ラーガ・ラージャ(Ragaraja)だが、タッキ・ラージャ(カーマ・ラージャ)として、後期密教における十忿怒尊(じゅうふんぬそん)=チベット密教を含む後期密教の尊格で、いわゆる日本の明王に、関連位置づけられている。

この、カーマ(Kama)は、ヒンドゥー教における愛の神。愛の意で、マンマタ、カンダルパ、マーラなどとも呼ばれ、ブッダを誘惑している。
これが、さっきの『マーラは第六天に住む天界の最高神であり、他化自在天や第六天魔王ともいう』 に、繋がっていくのだ。


因みに、この『マーラ=まら』とは、我々男どもの象徴『まら』のコトだそうだ。
え?ホンマかい? 我が国において、マーラが釈迦の修行の邪魔をした、と云う故事から修行僧により煩悩の象徴として、男根の隠語として用いられるようになったとか。
 う〜〜ん、益々おもしろい。が、そもそも、この幾つも出てくる、『別名』が、紛らわしいんじゃ!

 だが、冷静になってみると、逆に観智院での愛染明王に対するインスピレーションも、自らを神、魔王(第六天魔王)と称し、当時の常識に縛られず、大胆な方針・政策を果敢に実行した、織田信長公を好きになった理由も、全てはここへ至るための必要な経緯・因果だったようにも思える。


▼第六天魔王と、愛染明王について
 更に詳しく知りたい人は
『第六天魔王とは』
天魔(てんま)とは、第六天魔王波旬(はじゅん=悪魔)のこと。仏道修行を妨げている魔のこと。天子魔(てんしま)・他化自在天(たけじざいてん)・第六天魔王(あるいは単に魔王)ともいう。あるいは天魔の配下の神霊(魔縁参照)のこと。

四魔の中の天子魔にあたり、正法に敵対し、仏道修行の障害となり、成仏を妨げる働きをする。智慧の命を奪うので、奪命ともいう。この天の寿命は一万六千歳で、人間の1600年が1日にあたるという。

第六天とは、仏教における、天欲界・色界・無色界の三つに大きく分けられた天界のうち、欲界の更に地居天と空居天の二つに分けられた、四大王衆天を第一とする、六欲天の最高位にある他化自在天(梵名:波羅尼密和耶越致 Para-nirmite-vasa-vartin)をいう。
*大自在天(梵名:Mahesvara 摩醯首羅、まけいしゅら)


分かり難い?

よね?

ならば、これならどう?

 色界
 ↑ 
    ⇒空居天  第六 他化自在天・・・第六天
           第五 楽変化天・・自らの神通力で欲を満たす
欲界        第四 覩史多天(兜率天)・・弥勒菩薩や弘法大師のいる場所
           第三 夜摩天・・・閻魔様が住む。欲楽を受ける事が出来る
    ⇒地居天  第二 三十三天(刀利天)・・帝釈天などが住む
           第一 四大王衆天(下天)・・四天王や夜叉
 ↓
 人間界


やっと、分かった!
他化自在天とは、御仏の名前だと認識してたが、天部の一部を指す場所の名称でもあったのか。 住んでるところに自分の名前を付けるからややこしいんじゃい。(笑
この天界自体、神の領域なのだが、人間よりは、とらわれの程度が少ないとはいえ、時として、欲望にとらわれる神の住む場所。然るに男女の区別もある。次の色界からは性別がなくなる。
具体的には、地居天は須弥山の中腹から頂上を指し、ここから地上を離れ空中に存在する、空居天は須弥山の上空を云う。

次の色界は四段階で17天。 更にその上が、非想非非想処=有頂天を頂点とする、心の安定状態が究極に進み、物質を超越した故に、体の大きさは無く、寿命だけが存在する、四天と云う世界がある。
因みに我々衆生の住む、人間界は欲界の下にある。つまり、下天のまだ下。下のげってこと(笑。


 初期仏教において天魔として名前を挙げられるマーラー(マーラ)・パーピーヤス(天魔波旬)のほかに、後期ではインド=イランから中央アジアの神、マヘーシュヴァラ(大自在天、ヒンドゥー教の神シヴァと同一視されることも)が天魔と表記されることから、同一視されていることが多い。
尚、マーラはウガリット神話における死の神モートと語源を同じくするという。
Wikipedia 参照

 ・・・と云うことは、どうやら他化自在天も、第六天魔王も、はたまた、降三世明王に踏みつけられている大自在天も、愛染明王も全て、本来は同一と云う認識で良いであろうか?

〜ちょっと脱線〜
東寺の講堂内、21体諸尊の中でも、四面八臂(よんめんはっぴ)で、人を二人も踏みつけている、降三世(ごうざんぜ)明王は、特徴的で見つけやすい。

踏ん付けられているのは大自在天と后の鳥摩。
すなわち、シヴァ神とウマー妃。密教五大明王の1人として東方守護を担当する、「降三世明王」たる名の由来は、シヴァ神がヒンドゥー教で「過去・現在・未来の三つの世界を治める神」とされている為、三つの世界(三世)の王を降す者、という意味で「降三世」の名が与えられている。

阿閦(あしゅく)如来、もしくは金剛大日如来の教令輪身とされ、金剛薩埵菩薩の化身ともされる。

???あぁ〜またややこしくなってきた(怒
「○○○ともされる。」紛らわしいから、もうええっちゅうねん!

更には、シヴァ神の化身という説もある。
が、この説を採用すると、シヴァ神の化身=降三世明王であり、このお方は、自分で自分を踏んでることになるし、しかも、奥さんの鳥摩(ウマー妃)をも踏んづけていることになる。

あれ?
シヴァの神は、元々は破壊を司る神。我こそが世界の王であると、君臨していたが、降三世明王の呪力の前に、(だから、踏んづけられて)改心(帰依)してからは、六欲界最高位に君臨して、仏法守護を誓っているのでは?

なのに、なにゆえ化身とは?

また、他化自在天を本尊に、祈願すると求愛成就するとも、伝えられている。 フムフム。この部分は、イコール愛染明王だと分かった今なら、納得できる。

しかし、この記述。「我が国において、他化自在天の単独信仰はあまり見られず、密教十二天の一尊として祀られる事が多い。 また、度々大黒天と同一であるとも云われる。」

えええー!
なんじゃそりゃあ!
大黒天まで、同じなんかい? なんもかんも、一緒くたやないかい!


しかし、前述の「求愛成就」と云う、点を除けば、あとは特に『第六天魔王』と、『愛染明王』が、同一であると云う、分かり易い共通点は見つからない。

ただ、Wikipediaによれば、他化自在天(マーラ)は、弓をもった姿で描かれ、この世のすべてを自在に操り他人を楽しませ、自分も楽しむ神である。見方を変えれば誘惑者であり、また、楽しい気持ちにさせてくれる神である。とされている。

つまり、他化自在天(マーラ)は、この世のすべてを自由自在に操り、自分自身を含めた人々に快楽を与えるとされる。 これを、愛欲・欲望・煩悩のマインドコントロールと置き換えるなら、渇愛も煩悩の一つと見なすべきであり、愛染明王の功徳である、「煩悩即菩提」に繋がっていくのも納得できる。

「煩悩と愛欲は人間の本能であり、これを断ずることは出来ない、むしろこの本能そのものを向上心に変換して、仏道を歩むべし」と、愛欲・煩悩など人間、つまりは男と女の本質と、敢えて肯定した上で悟りに導く。
と、することからも、衆生が仏法を信じない最大要因である、「煩悩・愛欲により浮世のかりそめの楽に心惹かれている」つまり、どうしようもない、男と女の本質は仏法ではどうにも抑えられんのよ。

と云うコアな部分を、逆に悟りへの道案内にしてしまっているとことが、不動明王を別格として除けば、人気・知名度共にナンバー1の明王であるのも、素直に理解出来る。

それゆえに、古くは遊女の信仰対象にもなっていたのであろう。
現在の援助交際やソープのように、自分の金欲しさに体を売っていたわけではなく、純真に人を愛し、また自身も心からたった一人に愛されたかった、切なげな遊女たちの想いも、愛染明王への信仰により多少は救われていたのではなかろうか。

 自分にとっても、今まで恋と愛こそが全てのエネルギーの源であり、事業も自分磨きも勉強も、なにもかもが恋する気持ちがあったからこそだった。
愛欲・欲望こそが、目標貫徹に絶対不可欠な要素であり、人として男として生きる糧を生み出す原材料だった。

一時は色恋沙汰をビタリと止め、一切の物欲を捨て去った自分なのだが、愛染明王と第六天魔王を深く知れば知るほど、無理に否定放棄する必要はないんじゃないかと思えてきた。*元々、空海のもたらした密教(東密)は、愛を肯定している。

他化自在天と眷属 愛染明王の持ち物といえば、代表的なのが弓矢。
ロマンチストな自分も大好きな、ギリシャ神話に登場する「エロス」も愛のキューピッドと云われ、弓矢を持つ。他化自在天も弓矢を持っている。そして、自分の星座である射手座:Sagittarius サジタリアスも人馬宮で弓を引く。
次に自分に、この弓を引かせる魅力的な女は、いつ出遭えるのだろう(笑



まとめ『第六天魔王と愛染明王の因果関係』
○愛染明王の起源は、学説的には不明。インドの文献でそれと特定できるものがない。
○「フーン タッキ フーン ジャハ フーン」の真言から推察するに、後期密教における十忿怒尊のタッキ・ラージャ(カーマ・ラージャ)が、最も有力な基となっている。
○ギリシア神話のクピド(キューピッド=エロス)にもルーツを持つ
○高野山の「天弓愛染明王像」初め、弓を持つ像が多い
○カーマ(Kama)は、ヒンドゥー教における愛の神。愛の意
○カーマ=マーラは釈迦が悟りを開く禅定に入った時に、瞑想を妨げるために現れたとされる魔神。
○マーラの別名:魔王マーラ・パーピーヤス(天魔波旬、魔羅、天魔、悪魔)
○マーラの語義は「殺すもの」であるとも、「死」の人称形
○マーラ(Mara)=他化自在天・第六天魔王
*ここまで砕いて、ようやく愛染明王と繋がる
大自在天○大自在天と他化自在天は、やはり違う
○大自在天は、色界の最上階、色究竟天に住む。憤怒は十二天の伊舎那天。
○共通点:他化自在天はもと魔物、大自在天は暴神シヴァ。
どちらも仏法によって魔力を封じられ、欲望を封じられ今は天界に住まう。